宿名にも掲げられている『千人風呂』は、大正4年(1915)に先々代の主人が造った名物風呂だ。
長さ約15m、幅約5mの浴槽は確かに広いが、驚くのはその深さ。浴槽の半分は1m以上の深さがあるのだ。「泳ぎたくなるような広い風呂」とはよく言うが、ここはまさに「泳げる広い風呂」なのだ。
「先々代は、『伊豆の名物となるような風呂を……』という思いで、この『千人風呂』を造りましたが、どうも“温泉”というより“温泉プール”、つまりレジャースポットとして話題になるものを考えていた節があるのです」
そう話してくれたのは、5代目主人の今井さん。現に、昭和2年発行の『療養本位温泉案内』というガイドブックには『千人風呂』が「一回五銭を払えば厳冬の真ん中に遊泳ができる」「温泉遊泳場」として紹介されたという。
「昔は浴槽全体が1m以上の深さでしたが、今は浴槽の半分は座って入れる普通のお風呂の深さ。浴槽や洗い場も、当初はコンクリートやタイルが使われていましたが、私の代になり、昭和63年、平成14年の2度の改修で総檜にしましたので、随分お風呂らしくやわらかい雰囲気になったと思います(笑)。本館が木造の温もりのある建物ですから、全体を木造で統一するとバランスがよく、居心地がいいのでは……という発想でした。木の浴槽や板張りの床は掃除の手もかかり、5~20年ごとの張り替えの費用も馬鹿になりませんが、肌ざわりの良さはやはり格別ですから」
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