岩手というと一般的には花巻温泉が有名だが、その奥座敷として江戸時代末期から明治、大正にかけて栄えたのが台温泉。そもそも、台温泉は元中4年(1387)年に発見され、県内では最も古い温泉である。しかし、高度成長期に花巻温泉が開発されて華やぐと急速に客足が遠のき、忘れられて温泉地として我慢の時を強いられた。
ところが、近年再び台温泉の鄙びた風情が注目され、温泉ファンの間で人気が高まりつつある。20軒ほどある宿の中でも風格のある木造4階建ての建物で目を引くのが『中嶋温泉』だ。
玄関を入るとまず柾目も美しい欅の一枚板を使った床が目に入り込んでくる。擬宝珠を施した漆塗りの階段といい繊細な彫刻で飾られた欄干といい、本当に溜息が出るほどの贅沢な建築だ。館内は、いたるところに古の懐かしさが溢れ、まるで、美術品のような建具が特別な空間を演出している。
これらの大部分は昭和8年頃完成した物で、大変な数奇者だったという先代が、お金と時間を惜しまずに建てさせたものだ。「宿泊客さえままならなかった時代に随分思い切ったことをしたものだ」と呆然としてしまう。 |