第5回 春から秋の奥飛騨は最高ですよ!
湯元長座【岐阜・福地温泉】
長座は私にとって特別な宿なのです。
ちょっと辛気くさい話で恐縮ですが、両親との最後の家族旅行で出かけたのが、この長座だったのです。
今からもう15年は昔のことになるでしょうか。ガンを患っていた母が一時退院したときのことです。
山が好きだった母を連れて行く温泉に、私が選んだのが奥飛騨温泉郷の長座でした。なぜこの地を選んだかといえば、それはこの温泉郷が素晴らしい自然環境に包まれているから。
目の前には北アルプスが聳え、トンネルを抜ければ上高地へ、車で山を駆け上がれば乗鞍岳へ……。
これだけドラマチックなエリアは日本広しといえど、そうはありません。
しかもアクセス良好で、現在は東京から車で3時間半程度で着いてしまうのです。
そもそもこの地域には、子供の頃から何度も遊びに来ていました。
我が家では毎年夏になると上高地で数日を過ごすのが恒例行事になっていましたし、それ以外にも周囲の山々へ登るために、何度も両親に連れられて長野、岐阜県境を訪れていました。
つまり、奥飛騨エリアを最後の家族旅行先と決めるのは必然であったわけです。
ではなぜ奥飛騨の数ある宿の中から長座を選んだのかといえば……。
私は当時、東京ウォーカーやじゃらんなどの雑誌を作る編集プロダクションを運営していました。
旅行雑誌を作ることも多く、人気エリアであるこの地域を何度も訪ねていました。そして「最近、ちょっといい宿ができた」というウワサを聞いていたのが湯元長座だったのです。
長座には2泊したのですが、母は「こんなに素敵な宿に泊まったことがない」としきりに喜び、それはいい想い出になりました。
なぜそんなに喜んだのかといえば、それは長座の趣きが素晴らしかったから。
現在ではけっして珍しくない古民家移築再生の宿ですが、当時はまだ珍しく、「古いのに古くない」その快適さに驚き、
さらに「あたかも昔からそこに佇んでいるような」風景との調和に驚いたのです。
もちろん温泉や料理も当時としては画期的なもので、木造の内湯の風情は湯治場を思わせながらも快適、
料理も囲炉裏端の素朴さを演出しながら豪勢、と、「こんなのあったらいいのになぁ」という世界を創り出していたのです。
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こちらは館外に建つ「かわらの湯」。日帰り入浴も可能。
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湯元長座の外観。古民家移築で建てられた宿だが、まるで昔からずっとそこにあるかのような、ずっしり重厚な趣きを感じる。
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本館にも内湯、露天風呂がある。こちらは日帰りでの利用は不可。
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