若女将が惚れ直した本物の味
松之山温泉は新潟県十日町市の山の中にある小さな温泉街です。山の斜面には美しい棚田が広がり、雪解け水と天水(降雨)によって生命力の強いおいしいコシヒカリが育ちます。四季がはっきりしているので畑作も盛んで、さまざまな種類の野菜が生産者の畑から直送されます。そばや豆類など雑穀類の栽培も多く、それらを使った加工品も充実。松之山郷産無農薬栽培の大豆を使用した豆腐や昔ながらの製法で作られた無添加の納豆など、品質の高い加工品が日常的に手に入ります。
おいしいお米に採れたての野菜、無添加の豆腐や納豆などなど、都会ではなかなか手に入りにくいこれらのものも、松之山ではごく普通に毎日の食卓に上がってきます。春はウドやワラビなどの山菜、夏はかぐら南蛮や糸かぼちゃ、秋は天然のきのこ、冬は雪室野菜や雪国伝統の保存食などなど、山の恵みを挙げればきりがないほど。朝、山や畑から収穫してきた野菜に合わせて献立を決め、採れたての旬を堪能する、そんな昔ながらの食文化が、松之山には今も暮らしの中に残っています。
松之山ではごく日常的な味わいも、他県から嫁いできた和泉屋の若女将には驚くほどの美味しさでした。そして、嫁いでから十数年、毎日食材を仕入れ、調理するうちに、改めてこの山の恵みに惚れ直したのだそうです。
「松之山に来ていただいた方への本当のおもてなし。それは松之山の自然を感じ、空気を胸一杯に吸って、温泉に浸かって、松之山の産物でおなかを満たしていただくことではないかと思うのです」。
そこで、若女将は『山のごっつお』のすばらしさをもっと知ってほしいと、松之山の食材をマクロビオティックで調理した『まくろびプラン』を考案。和泉屋の特別コースになりました。
『まくろびプラン』の夕食には、「ぜんまいと百合根の白和え」や「ゆず大根」、「自家製ごま豆腐」や「里芋の玄米クリーム巻き」など、手をかけた野菜料理が次々に登場します。マクロビオティックは、できるだけ調味料を控え、野菜の持ち味を生かすことが基本の調理法。無農薬で育てた地場の食材を使い、動物性のだしや油、食材を使わず、調味には無添加・天然醸造の調味料を使います。ごま豆腐やこんにゃくなどの加工品もほとんどが自家製。一部、外から仕入れている加工品も無添加のものです。
和泉屋が一つ星の理由
「動物性の食材を使わない」ということを除けば、マクロビオティックは雪国A級グルメのコンセプトそのものです。雪国A級グルメとは、地場の食材を雪国伝統の製法を生かしながら、丁寧に引いただしと無添加・天然醸造の調味料で調理すること。そのような意味で、松之山温泉・和泉屋の『まくろびプラン』は、完璧な雪国A級グルメといってもいいかもしれません。
しかし今回の星認定は一つ星。この認定結果に納得のいかない人も多いと思います。理由は『まくろびプラン』と通常プランの夕食とでは、食材の選び方や使用する調味料、そして調理法もまったく違うからです。和泉屋では、『まくろびプラン』と通常のプランを明確に分けています。丁寧に引いただしと無添加・天然醸造の調味料で作られた料理は、『まくろびプラン』でないと食べられません。
なぜなら、松之山温泉は他県からの観光客と周辺地域からの地元客、どちらも満足させなければならないからです。旅慣れた観光客は、その土地の食材をその土地の料理で食べたいと思うものですが、なかには山の中でも「マグロの刺身が食べたい」という人は必ずいます。また、使用する食材や調味料のすべてを『まくろびプラン』と同じものに統一し、その手間に見合った価格設定にすれば、地元客は「高い」と感じてしまいます。家族経営の小さな宿で2種類のコースを用意することはとても誠実で、自然な対応なのです。
星は一つですが、『まくろびプラン』は間違いなく、食材と作り手の想い、環境のすべてが揃った雪国A級グルメのど真ん中。ちなみに『まくろびプラン』の料金は、通常コースのプラス3,000円。作る人の手間と時間、調味料の品質の高さを考えると、こちらが心配になってしまうほどの安さです。
ところで、2種類のコースを用意したことで、徐々に『まくろびプラン』を注文されるお客様が増えているそうです。たとえば、「今回は通常のコースをいただいたけれど、次回はマクロビを食べてみたい」というように。
「まくろびプランの食事を召し上がりながら、『ステーキも追加でね』とおっしゃるお客様もいるのですが、それはそれでOKなんです。松之山に来て「おいしかった!」と思っていただくことが一番。マクロビを召し上がっていただくことが目的なのではなく、松之山の食材の持ち味を引き出すためのマクロビですから」。
若女将にとってマクロビとは、松之山にある本物の味を守り伝えるためのもの。松之山の澄んだ空気の中、温泉に入り、湯上がりには採れたて新鮮な「山のごっつお」をいただく。料理だけではなく、料理に至るこの流れこそが松之山のA級グルメなのかもしれません。
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